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STORY
スクウェア・エニックスで「働く」ストーリー
こんにちは、スクウェア・エニックス 人事部 採用担当 平山です。
これまで現場社員の様々な声をお届けしてきました「スクレポ」も10回目を迎えることとなりました。
記念すべき第10回目は、ゲームAIの第一線で活躍しているAIゲームプログラマー&研究者として働く社員の声をお届けします。
ゲームAI技術が発展するために必要なことやゲーム産業の現場に影響を与えるための方法と、AIによって変わるゲームの未来についてお伝えします。ゲームAI技術に興味のある方はぜひお読みください。
AI部 三宅 陽一郎
Luminous EngineのAI部分の設計、「ファイナルファンタジーXIV」や「ファイナルファンタジーXV」のAI開発、「KINGDOM HEARTS III」のAIテクニカルディレクター。入社以来テクノロジー推進部のAI Unitでリードを務める。
テクノロジー推進部 ADVANCED TECHNOLOGY DIVISION | SQUARE ENIX
経歴と入社したきっかけを教えてください。
前ゲーム業界に入る前は、京都大学の学部で数学を、大阪大学の修士課程で加速器物理を研究していました。筑波の高エネルギー加速器研究機構(KEK)というところで研究していました。それから2001年頃に東京大学に移り、人工知能の研究を始めました。2004年からはロボットゲームやファンタジーゲームの人工知能の研究・開発に従事したあと、スクウェア・エニックスには2011年に入社しました。
IT企業からのオファーもあったのですが、スクウェア・エニックスを選んだ理由として、僕が「FINAL FANTASY」シリーズや「ドラゴンクエスト」シリーズ、「バウンサー」「キングスナイト」をすごく好きだったというのがあります。
また、僕の研究の方向も、個々のAI技術を突き詰めるというよりは、技術を結集して一個の仮想生命みたいなものを作りたいというものなんです。それを一番実現できるのはすべての産業、アカデミック含めてゲーム会社しかないんですよね。なぜかというと、ゲーム会社しか作れないような、緻密な3D空間とかミッションとか、キャラクターのモデルとかモーションとか、つまりは優れたアーティストがいるというのはゲームAI研究にはすごく重要だからです。アートと技術の力で、リアルなシミュレーション空間を作れるのはゲーム産業の最大の強みの一つで、そこが他産業やアカデミックからますます大きな注目を浴びています。大学との共同研究もそこがフックになっています。実はデジタルゲームのAI って世界的に見てもゲーム産業がけん引している分野なんですよ。最近はAIのブームもあってゲーム産業以外にもAI技術を提供する会社はたくさんありますけれど、何百万人という人が実際にAIとインタラクションしてくれるゲーム産業は、AI研究からするとすごく魅力的なんです。
現在はどのようなお仕事をされていますか。
AIユニット全体のリードを担当しており、研究を重ねて、ゲーム開発にとり入れていくこともあれば、ゲーム開発プロジェクトからご要望を頂いて開発する場合もあります。例えば「ファイナルファンタジーXIV」ではパス検索の技術ですとか、「ファイナルファンタジーXV」はエンジン設計を通して、メタAI、キャラクターAI、ナビゲーションAIの全体の仕組みですとか、「KINGDOM HEARTS III」は立ち上げ当時からAI部分の基礎的な仕組みなどです。まずはこちらから社内にこんな技術があります、とAI技術をアピールしていくのも仕事の一つです。開発部署がどんな技術を必要としているのか、話し合いを通して探っていきます。具体的な需要がないときは、コツコツとライブラリを作ったり技術をストアしていったりしていますね。あとは利益相反にならない範囲で、車メーカーやロボット産業など異業種にアドバイスをすることもありますし、話が進めば共同研究をすることもあります。
ー共同研究の具体的な事例を教えてください。
昨年は、オムロン社の卓球ロボットとメタAI技術の共同研究を行いました。共同研究をすると、他の業界のAI動向が分かりますし、向こうの研究の知見をこちらに持ち帰って、ゲームに還元することもできます。今、AI技術は分野を横断して全体的な流れの中にあります。ゲームAIは、一番古くからある分野の一つですが、例外ではなく、その流れに巻き込まれつつあります。人工知能は2つの流れがあり記号主義(シンボリズム)とコネクショニズム(ニューラルネット)と言いますが、シンボリズムはゲーム産業がとても強いですが、ニューラルネットなどいわゆるディープラーニングの分野では、他産業の方の動きが速く、現在、特に推進している分野でもあります。ゲームAI技術はこの技術で大きな変革期を迎えると思いますが、最終的には記号主義とコネクショニズムが融合したシステムになると予想しています。
オムロン、スクウェア・エニックス 「人のモチベーションを高めるAI」を共同研究 | SQUARE ENIX
ゲームAI技術の発展のためには何が必要と考えていますか。
CGに比べても、まだこの分野は黎明期だと思っていますから、大学・産業を巻き込んで、一つの大きな流れを作り出す力が必要です。そして僕のもう一つの目的は、ゲーム産業全体のAI技術を上げていくことです。勿論、ゲーム産業の中でもスクウェア・エニックスが牽引するんだけれど、まだまだAI研究をやっている会社も少ないし、技術そのものの数も少ないので、いろんな会社に対してAI研究をやろうよとアピールしています。
CEDECなどのカンファレンスで交流すれば、我々にとってはアピールになるし、他社にとっては技術が提供される。スクウェア・エニックス一社だけでドーンと上がっていくっていうのはやはりあり得なくて、産業自体の底が上がっていく中で、それぞれの方向で尖っていくというのが理想ですね。
以前は海外のAI技術の勢いがものすごかったわけですが、最近はやや画一的になり、むしろ日本の方が柔軟に発展させていく時代に入りつつあります。AI Unitとしても昨年はGDCで5人のエンジニアが技術発表をして注目を集めてくれました。そのような技術発表を見て、ここならば、ということで応募してくれる方も少なからずいます。面接でAI Unitが出してきた論文や発表について語られる場合も多くあります。
世界的にゲーム産業のAIを見ると「AIによる自動バランシング・自動デバッグなどのQA」は、この5年で一番伸びてきた分野です。ゲームスケールの拡大に従って、重要性はますます大きくなり、実用化に向けて研究・開発を積み重ねています。この分野に限って言えば、日本のゲーム産業全体で協調する動きもあります。
ただ、結局のところ、技術発展のためには、技術が単に技術として入るのではなく、会社の文化の一部にならないといけないと思っています。あるタイトルで特定のAI技術が必要だと思うためには、事前にそのAI技術で何ができるかを知っておかないといけない。AI技術っていうものが自然に会社の文化の中に融け合っていないといけない。
当社の場合ですと、CG技術だとそれが実現しているわけです。このクオリティではユーザーが満足しないだろうというラインが感覚として分かっている。AI技術は現状、その感覚がなくて良し悪しの判断もしづらいと思うんです。
だからこそ、AIを使うとこんな感じになるんだという感覚を社内のエンジニアではない人にも知ってもらうことが実は一番大切で、逆にAIエンジニアは現場の求める感覚を知らなくてはならない。そのための環境作りについてはAI Unitのリードとして常に考えています。
AIで何ができるのかを社内の多くの人が知っている状態を作ることがまず必要だということですね。では具体的にAIを使うとゲーム内で何ができるようになるのでしょうか。
一言で言えば、ゲームに柔軟性をもたらすことです。たとえば、サンドバッグ的にただ殴られるAIを相手に戦っていると、ユーザーもどんどん戦闘に飽きてくるんです。その問題を解決するためにまず、その場の地形や状況に応じた戦術を、キャラクターAIやメタAI自身(場をコントロールするAI)が作っていくアプローチを考えます。
キャラクターやモンスターの行動パターンをあらかじめ組む手法ですとキャラクターの数×場所の数、ということで数百~数千程度が限度です。このスケールで間に合わない場合は、AI技術で戦闘を生成して行く、というアプローチが考えられます。
戦闘に多様性を生み出すものとして、空間と時間、そしてイベントの3つの方向があります。空間では、その場で地形を解析して地形の情報を抽出し、その情報をもとにAIが場所の使い方を決めたり、キャラクターもうまく地形を使ったりすることができるようになります。例えばここに坂道があったら、上に上がって、加速してぶつかっていくとか、岩場に隠れて忍び寄るとか、木に火をつけて風上から戦闘を仕掛けるとか。敢えてそういった変数を無視して突っ込んでいくとか。それを各キャラクターが自律的に自発的に行う、というのがキャラクターAIの技術です。
空間方向は地形を特徴づけるものとすると、時間方向は緩急をつけるもので、戦闘に起承転結、ドラマを作るんです。これがメタAIの役割で、戦闘不能になったモンスターの数などから戦いの流れを把握して、中盤でいったんひいて分散するとか、逆に終盤では戦力を集中してプレイヤーにぶつけるなど、時間軸上の戦闘のリズムをリアルタイムにデザインします。
今回の戦闘は味わい深かったなとか、今回の戦闘は録画しして取っておきたいぜ、みたいなクオリティの戦闘をプレイヤーにできれば毎回届けたいと思っています。
ゲーム全体に対しても、メタAIによって、例えばある場所からダンジョンまで行って帰ってくるまでの道のりに、ちょっとした分岐を入れることも可能です。道中に行き倒れのお姫様を出して助けるイベントとか、アイテムが盗まれるイベントとか。そういった小さなイベントを自動生成すれば、組み合わせ次第では何千、何万というパターンの体験が生まれるわけです。
コンテンツを固定させずに、あえてプラスアルファで揺らぎをもたらすところがAIの最大の利点でもあって、そうすることでイベントの組み合わせとしてユーザー固有のコンテンツがすごく増えていきます。その体験をそれこそ動画共有サイトなどで共有してもらえば、このゲームは過程にいろんなバリエーションがあって、すごく作り込んであるなという印象を持ってもらえます。実際は作り込んでいるわけではなく、AIが作ってくれているものだとしても。
AIエンジニアの第一人者として、未来のゲームはどのようなものになると思いますか。
ゲームAI技術って、ゲームをよりダイナミックにするものなんです。かつては固定されていたコンテンツに柔軟性をもたらすことです。たとえば、僕が業界に入った頃は、固定パスが普通でした。ダイナミックにパス検索を行うというのは、今では普通ですが、当時は、どうやってデバッグするの、と言われて導入にも一苦労でした。そういうふうに、今は、ゲームの中で作り込んで固定しなければならない、と思っているものも、時間が経てば、その場で生成するものへと変化していきます。
例えば敵の形状や、強さですとかストーリーの分岐、マップの形さえ今だと動的に変化できます。これまでは何百万人という人に同じ体験を届けるというのがデジタルゲームだったんですけど、AI技術というのは、「だいたい同じだけど、ちょっとずつ違う」ようにゲームを変えていくことで、ユーザーの体験を差別化できるんです。体験に差異を生み出すことは、それぞれの体験に価値を与え、ユーザー同士のコミュニケーションを促進させることでもあります。
たとえば位置情報ゲームに、各ユーザーにあわせたストーリーを生成する仕組みを入れる、ということを考えてみます。池袋と品川と新宿でそれぞれプレイヤーがいて、仕事が終わったからちょっと集まろうか、という場合に、それぞれの現在地にミッションを設定するんです。位置ゲーはふつうは、特定の場所に人を集める事が多いと思うんですけど、3人がいる場所に応じてストーリーを作ってあげるんですね。
池袋では盾を、品川では剣を、新宿で兜を、そして東京タワーに集合してラスボスを倒す、と言った具合に。たとえ単純な物語でも、それぞれユーザー固有の物語を提供することができます。ゼロベースで物語をプレイヤーに合わせて作っていくことがAI技術では可能です。これはプランニングと言われる技術です。
あるいは普通のデジタルゲームでも、プレイが下手な人だったら7階層もあるダンジョンは潜れないから、3階層で終えてあげるとか。AI技術を使うと、ゲームのマップやゲームのミッションもある程度コントロールできるようになります。モンスターの数を減らしたり強さを調整したりする難易度コントロールは昔からあったんですけど、AI技術を使うと、そういう形でゲームをユーザーにどんどんパーソナライズしていくことが可能です。そういったゲーム体験の固有性は、ゲームを配信したい、という世代にフィットすると考えています。
あらかじめ決められているものではなくて、その場でAIが判断してプレイヤーの緊張の緩急を人工的に作り出すものが提供できる。その技術を今いろんな会社が発展させようとしています。ゲームプレイによってゲーム自体がユーザーを理解して変わっていき、深いインタラクティビティを生み出すゲーム、これがAIによって実現する近い将来のゲームといえます。
どんな人と一緒に仕事がしたいですか。
こだわりのある人です。デジタルゲームや研究分野、全体でなくても、ここだけは譲れない、というフォーカスがある人は、良い仕事をすると考えています。それが品質を高めて行きます。それはモンスターのしぐさだったり、AIキャラクターのプレイヤーに対する気遣いだったり、ツールの使いやすさだったり、特定のもので構いません。専門性と突破力のある人材を求めています。
これから当社へ応募される方へのメッセージをお願いいたします。
弊社のゲームをプレイしてくださった方も多いと思います。先人が築き上げた蓄積の上に、さらに革新をくり返すことが必要とされています。人工知能はその中でも新しい流れもたらすものです。ワクワクするようなゲームの新しい可能性を切り拓き、新しいビジョンをユーザーに届けることを探求したい方、お待ちしています。
新会社「スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー」設立
スクウェア・エニックス・グループの会社として、ゲームで培った人工知能技術の可能性を拡大し、高いアートの力と融合させることで「エンタテインメントAI」の研究開発・事業推進することを目的に、新会社「スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー」が設立されたことが5月28日に発表されました。